アイリスの行方

 ほんの小さなできごと2





長い長い長い沈黙が続く。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

どちらも口を開くことはない。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

男は無言のまま、少女の方に向かって歩いていく。


「ッ―――!!」


訳がわからない少女は男が一歩近づくごとに
少しずつ後ずさる。


(何なの・・・?この人・・・)


男は後ずさる少女を見ても機嫌を悪くすることはなかった。

むしろ、楽しそうに笑いながら少女に近づいていく。


まるで強者が弱者を追いつめるように―――


かつんと音がして、少女の足は先ほど盛大に頭から
突っ込んだ看板へと当たる。


少女の様子に頃合いだ、とばかりに男は口を開いた。


「お前、魔法使えるんだろう?」


少女にだけ聞こえるような囁く声だった。


(・・・やっぱり、暗殺者・・・!!)


少女は気丈に男を睨みつける。


(・・・どうしたら―――)


少女は焦りながらも懸命に考える。


どう見ても自分より男の歩幅のほうが広い。

つまり、右に逃げようとも左に逃げようとも
結果は同じ。


捕まるか、最悪の場合・・・殺されるかだ―――


むろん、少女はどちらも選ぶことはない。


ならば―――


少女は掌を前に突き出し構える。


男を見据えながら―――


「なるほど・・・体術か。
まあ、ここじゃ魔法を使いたくても使えないよな」


当然だとばかりに男は
「こんな街中で、んなもん使っちまったらそれこそ嬢ちゃんは終わりだ」
と言ってのける。


「ッ・・・・・・!!!・・・・・・・・・」


少女は男の言葉を肯定するかのように
より強く地面を踏みしめた。





魔術師殲滅協会――――――


その名のとおり魔術師の存在を認めず、
魔術師を殺しつくすという志の元に存在する団体。


通称―――暗殺者―――

または、イレイザーと呼ばれている。


世界中に散らばり、誰がイレイザーなのかはわからない。


だからこそ、少女は安易に魔法を使うことができない。