アイリスの行方

ほんの小さなできごと3





「俺に素手で挑もうとするその度胸は買ってやる。
だがな、お前が俺に勝つことは無理だ。
なぜなら・・・」


チャキ、と音をさせ、男は少女に
得物を突き付ける。


「お前が俺に攻撃するより先に
俺がこいつでお前を仕留めるほうが速いからな」


男はにやりと笑い、自信満々に言ってみせた。


それがはったりなどではないことを少女はわかっていた。


この男の強さはどうみても自分以上だと――――――





(それにしても・・・あの武器は何なの・・・?)


少女は自分が今まで見たことがない武器を凝視する。


それに気付いた男はおもしろそうに口の端を上げる。


「教えてやるよ。これは銃剣だ。
お前も名前くらいは聞いたことあるだろう?」


少女はまじまじと銃剣を見つめる。


(あれが、銃剣、なんだ・・・・・・)


男は頭をかきながらこう言った。


「・・・言っておくが、俺はお前を撃つ気はまったくないからな。
安心していいぞ」


そう言った男はいたずら終了、とばかりに構えていた銃剣を下ろし、
少女と戦う意思がまったくないことを示した。


少女は唖然とした様子で立ちつくす。


「な、んだ・・・・・・」


そして、少女は全身の力が抜けてしまったかのように
へなへなと地面に座り込んでしまった。


「ふぅ・・・・・・、性質が悪すぎる・・・」


ぽつりと呟いた少女の目はすでに虚ろだ。


「おい、大丈夫か!?」


先ほどとはまるで人が変わったように男は少女に駆け寄り、
少女と目線を合わせるためにしゃがみこむ。


「・・・お・・・・・・・・・った・・・・・・」

「・・・ん?」


少女の声がよく聞こえなかった男は少女の顔に耳を近づける。


「・・・おなかへった・・・・・・」


そう言い終わると同時に少女は地面へ倒れた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


面食らった顔をした男は少女を見た。


しばし無言のまま、少女を眺めていた男は不意に空を見上げ、
おかしそうに顔を歪めた。


「は、腹がへった、なぁ・・・。
しかも倒れるほどか」


男は額に手を当て、ちらりと少女を見る。


「たいしたもんだな・・・」


くっ・・・、と男はだんだん笑いを堪えきれなくなり、
ここが街の通りだというのに大声で笑い出した。


男の傍を通っていた人々は彼を気味悪がり、
大げさすぎるほどに避けていた。


もちろん、男はそんなことを気にする性格ではなかった。


「さてと・・・。一応、医者の所に連れてくか・・・」


そう言った男は銃剣をしまい、倒れた少女を背負って歩き出した。


どこか楽しそうな表情を変えることはなく―――